・最近

息子が寝返りを打つ度に頭をぶつけるので、衝撃を和らげるマットを敷いた。リビング全体に。
お陰でホットカーペットの温もりがじんわりとしか伝わらない。
息子は毎日何度も何度も飽きずに転がる。
最近はママと呼べているような気がする。
来月には飛べるようになるんじゃないかと勘違いするほどの成長ぶりだ。

息子が生まれてもう数日で6ヶ月になる。
夫と結婚してあと少しで2年になる。

死にたくなくなってから、生きることに苦悩しなくなってからどのくらい経っただろう。
結婚する前は情緒は不安定で、薬に頼っていた。
でも改善は見られず、繰り返す毎日はいつ終わるのか、はたまたいつ終わりにするか考えるばかりの日々だった。
私が変わったのは夫と出会って、行動を共にするようになったからだ。
彼は、私が食べて吐いても、喉に優しくねと言うだけで止めさせようとはしなかったし、どんな私も愛してくれた。
私に怒ったこともないし、意見を無視することもない。
何より環境を変えようと努力してくれた。

その結果が今だ。
夫と、息子がいる今では自分の生にこだわるのがバカバカしくなった。
「なーに悩んでんだ。止まってる暇あったら離乳食作れ!哺乳瓶洗って?あ、洗濯機の掃除終わった?」と自分に自分で喝を入れられる日々だ。
自分が死んだら息子はどうなる。
息子をまだ病院に連れて行ったことのない夫に、息子の予防接種を任せるのは不安だし、料理をしない夫に離乳食は作れない。(いい歳した大人は本気出せば何でも出来るんだけれど。)
自分より愛しいものが出来ると人はこんなにも変わると分かったのは最近のことだ。
ここ6ヶ月で分かったのだ。

今では薬も頼らずに生きられる私だが、いつ死ぬかは分からない。事故や災害はいつ何時も隣り合わせだ。
その時までこの小さき命を守らなければならない。
それこそ死ぬ気で、必死に守る。
夫のことも死ぬ気で守る。
妻になり、母になり、ある意味大雑把で強くなった私はどこに辿り着くだろう。

息子に起こされ、仕方なく午前5時に起きる。
床が少しでも温まるようにホットカーペットの電源を入れる。
だって今日も息子は早朝なんて関係なく転がる。
じんわりと温かい床に座って、息子の未完成のハイハイを見ながら朝早いな〜、眠いな〜と文句を垂れる。
そうするうちに泣けるほど綺麗な朝焼けが見える。
大小の建物は黒い影で、まるで真っ赤な背景に映された影絵だ。その間の高速道路をトラックが抜けていく。
ひんやりと時に刺すような空気にピリリとしていると、息子が床に頭をぶつける鈍い音。
そんなことはへっちゃらに、何度も何度も転がる。
目的なんてない。成長すること、生きることだけに一生懸命な息子。

いつか飛ぶその日まで、転がる転がる。
ただ前を見ている。