・また一つ生まれる

 
非常に残念なニュースだ。女子中学生2人が手を繋ぎ、線路に飛び込んだ。13歳だったらしい。
 
幼い命と言ってもいいのだろうか。悩む。“もう中学生なんだから”とか“中学生なんだからしっかりしなさい”とか子どもから大人にならなきゃと日々言われていたのではないかとも思う。もちろん13歳は幼いけれど、大人な気もする。
13年の人生の中で、たくさんの嬉しいことや苦しいことを経験したんだろう。線路に飛び込もうと決めた時、たまりに溜まった辛く苦しい気持ちが心から溢れ出てしまったのかもしれない。
 
あなた達がどれだけ苦しい悲しい思いを背負っていたのかは知らない。分からない。2人で繋いだ手がどんな意味を持っていたのかも、縋り合うように2人は共存し合っていたのかもしれない。死が怖くて手を取り合い震えていたのかもしれない。ただなんとなく死にたかっただけなのかもしれない。私には分からないけれど。
勿体ないと確実に伝えることが出来る。
 
私なんかにも死にたいと思ったことはある。祖父から無言電話が毎日毎日家にかかってきて、両親が精神的に参っていた時や、姉の問題で両親と姉が毎晩怒鳴り合い怖くて震えていた時。祖父が亡くなって、もう自分と家族が悩まされることが無くなったと自分がホッとしていると気付いた時。
死にたくなった。でも死ぬ勇気も無かったし、いつも友人や先輩、後輩が居た。悩みを吐き出せば、こんな私にも言葉をかけてくれた。何度も何度も救われた。“大丈夫?”というたったそれだけで救われたんだ。
死のうと思った後に、大好きな人に出会って、苦しいくらいに鼓動が速まったことや、飛び上がるほど嬉しいこともあった。
 
だから勿体ないんだ。
13歳で、本気の恋をしただろうか。二日酔いの後の味噌汁の美味しさを知ってるだろうか。タバコを吸ってむせただろうか。まだ経験したことのないくだらないようで素敵なことがあっただろう。
 
 
私だって毎日些細なことに感情を振り回されて生きている。情けないくらいに。
困ったら、死にたくなったら、兎に角声をあげて欲しい。絶対に誰かがいる。ネットの中の人だったり、学校の先生かもしれないし、隣の家のおばさんかもしれない。でも絶対に誰かいる。それを忘れないで欲しい。それだけで、死は遠のいて行く気がするんだ。
 
悔しいくらいにあなた達のことを人は忘れていく。毎日新しい命が生まれて、一方で消えていく。自分の生活で手一杯になっていく。それでも、私はあなた達を忘れないよ。
 
 
 
 

・喜嶋先生の静かな世界


f:id:pantopancake:20160416183923j:image
『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣

自分が1番勉強をした時期はいつ頃なのか。私は高校3年生だ。特に英語の担当の先生が学校一厳しい方だったから、それこそ寝る間も惜しんで予習復習に時間をかけていたし、授業中も眠気なんて吹っ飛ぶほど緊張、集中していた。今思えばあの頃の知識が大学に入学してからも生かされ、英語の成績はSしかとっていないし1番上のクラスで学ぶことが出来た。そして何よりも自分の思い出として輝いている。あの頃に書き殴ったノートは捨てられないし、参考書も捨てられない。自分の情熱が残っている気がするのだ。

この本の主人公は橋場という男性で国立大学の理系に進み、研究に打ち込む。そこで喜嶋先生に出会う。これは読んでいけば気付くと思うが、著者の自伝的作品だ。著者が普段思っていること、研究に対しての思いがフワッと軽く、しかし大事な言葉で綴られている。淡々と物語は進んでいく。最後まで「研究」という情熱の難しさを際立たせながら。そして最後の2ページはミステリー作家の作品に相応しく、少し謎めいている。だからこそ心に余計に残るのかもしれない。

私を含めた学生は、きちんと勉学に向き合っているのだろうか。1日17時間を費やしたいと思う情熱を、好奇心を、向上心を持っているのだろうか。私は持っていない。しかしそれは大変残念で勿体ないということに気付いた。この本に出会ったからだ。
残された時間、私は絶対に無駄にしない。大人になる為に、成長する。教養を身に付ける。学生で居られるのは、あと2年しかないのだから。


・ASIAN KUNG-FU GENERATION

 
初めて聞いた曲は暗号のワルツ。
アジカン〟という名前は知っていた小学6年生の時、姉がTSUTAYAで借りてきたアルバム、ファンクラブを聴いたのだった。
暗い歌ばっかだな~という印象だったが、ブラックアウトや桜草、路地裏うさぎ、どの曲も初めて出会った旋律、歪んだギター、太いベース音に胸が高鳴った。その頃の少し前に出会って、歌詞とメロディーに惹かれたBUMP OF CHICKENとはまた違ったかっこよさを感じたのだ。
 
そして現在。毎日アジカンを聴いている。
友人がとてつもなくアジカンが好きなのだ。彼とカラオケに行くと必ずアジカンの歌を5曲は歌ってくれる。このカラオケで出会った曲は数多い。最近のお気に入りアルバムはマジックディスクだ。マイクロフォン、サンライズ、橙、イエスが特に好きだ。彼に伝えたところ、「橙は俺も好き。マイクロフォンのメロディー好きだけど、歌詞は意味が分からない。」と返答があった。私は歌詞のあまのじゃくな感じも好きなんだけどな。
彼のお陰で出会えた、すごくかっこいいアジカンの曲に今年はずっと支えられている。飛び上がるほど嬉しい日、悔しくてたまらない日、悲しくて大泣きした日、イラついて何もしたくない日、どんな日でも私の温度を上げてくれる。歪んだギターや、低いのに高音が美しくて切なさを表現るのにぴったりな声であるとか、すべて私らしさを持ってきてくれる音楽なのだ。ありがとう。お陰でどんな事があっても寝る前には明日に希望を抱いている私がいる。
 
〝涙が落ちて 海に注いで 何時しか空まで戻るような 何一つ残らなくたって 君が笑えば それで雨が上がって 頬が乾いて その跡に虹が架かるようなそんな時を想って どうか君よ 笑って〟
 
さぁ明日も笑うんだ。
 
 

・火花


芸人が書く小説を舐めていた訳では無い。世の中の売れている芸人は頭の回転が早く、話は面白いし、書いてる文章も面白い。オードリーの若林が書いているダ・ヴィンチの連載が好きでハードカバーの初版を買ったこともある。ピースの又吉はNHKの経済を扱う番組で度々目にしていたし、彼のコメントを聞いて、この人は頭がいいんだなとも思っていた。また読書家という面も彼のイメージを強くしているのではないだろうか。本を執筆するということに対して、彼にかかる周りからのプレッシャーは凄いものだったのではないだろうか。「本を沢山読んできたといっても書くのは下手でしょ。」とか「芸人が小説?作家を舐めるなよ。」というような否定的な意見もあったのではないだろうか。しかしこの『火花』は周知の事実であるように芥川賞を受賞し、映像化もされる。実に高い評価を受けたのだ。否定的な意見を言っていた人達に、してやったりの顔を出来るはずだ。
受賞してから随分経ってしまったが、今日『火花』を読了した。芥川賞の選考基準は分からないが、率直に良い作品だと思った。些細な表現が実に上手い。場面が目に浮かぶようだった。冒頭述べたように舐めていた訳では無いが、驚いた。すごい才能だ。

f:id:pantopancake:20160408235327j:image

この本は芸人の話だ。ご存知のように又吉直樹の本職は芸人である。芸人が書く芸人の話だ。そして芸人の彼だからこそ書ける芸人の話なのだ。本職が小説家であったら書けない話である。芸人という自分は将来絶対にならないと言える職業の裏側。自分の笑いを信じて、自分のセンスに人生をかけている。芸人は、人を笑わせるからおちゃらけた人に見える。でも実はとても熱い人間なんだと感じた。自分のセンスだけで闘うというのは、強い心が無ければ無理だ。芸人の間には今日も見えない火花が散っているはずだ。自分のセンスが認められれば売れる、つまらないなら売れないという簡単な仕組みだからこそ本気の闘いだ。その本気の火花の美しさを見られるような、そんな小説である。

エジソンが発明したのは闇〟
エジソンが発明したのは暗い地下室〟
このちょっとクスッとするようなサラッとしたユーモアが忘れられない。明るさを手に入れたが為に闇の存在が顕著になった。又吉直樹の頭の中を覗いてみたくなるようなそんな一言だった。
お暇があれば是非読んでみて欲しい。



・旅行~韓国編~


ふらっと立ち寄った店でなんとなく服を見ていたら店員がすぐさま飛んできて私の後ろに引っ付いてくる。私が手に取った商品があれば不慣れな日本語で商品の説明をしてくれる。ここではこれが丁寧な接客なのだろう。しかし日本でこの接客をしていたら、客に嫌われるのではないだろうか。日本に帰国する飛行機を韓国の空港で待ちながらそんなことを思っていた。自分が日本人だからだろうか。韓国の中心部にある店に入ればどこもこのような接客であった。いや、きっと韓国での丁寧な接客がこのようなスタイルなのだろう。欲しい物があればとても便利だが、ただ店の中を見てみたい、商品を見てみたいというだけであれば少し窮屈に感じる。ぴったりと付いてくる店員。このような小さなところで日本との違いをしみじみと感じるのであった。

f:id:pantopancake:20160405214345j:image
韓国でも桜が満開を迎えていた。杉は見当たらなかったが涙や鼻水が止まらなかった。埃やハウスダストがデパートでも舞っていたのかもしれない。海外に行っても鼻水と闘う自分。

f:id:pantopancake:20160405214530j:image
韓国はグルメもたくさん。友人の友人のおすすめのこのカキ氷。とても美味しかった。これはブルーベリーとチーズケーキ。

韓国にも良い人はたくさん居る。でも悪い人ほど印象には残りやすい。これは何についても言えること。成功より失敗の方が後に響く。一番感じたことは、韓国の方のパーソナルスペースは日本人より相当近いということ。空港で並んでいてもグイグイと押してくる。繁華街で歩いていても手を引っ張って店に連れていこうとするお姉さん。そんなに必死なの?という感じだし少し怖い。まぁ外国人相手の商売はそういうことなのかな。

なにはともあれ。日本語も通じるし簡単な英語が話せれば楽に過ごせる韓国。トイレや風呂もコンビニも勝手が同じなので過ごしやすい。地下鉄も地下鉄のマップが手に入れば楽勝。日本から2時間ほどで着けるし短期間の休みが手に入れば行くのもいいと思います。




・億男


f:id:pantopancake:20160401120046j:image

『億男』川村元気

「宝くじが当たればいいのに」とか「もし3億円当たったらどうしようかな」という妄想は誰しもが1度は考えたことがあるはず。(3億円なんてはした金と思えるお金持ちの方以外)

この本は主人公の一男が3億円の宝くじに当選したことによって起こる彼の日々のお話です。

一男は3000万円の借金があります。朝は図書館司書として、夜は工場で働くというダブルワーカー。

私には借金がないし、彼の生活は私より辛い状況です。

私のような大学生の単純な「お金が手に入ったら好き放題使えるな~」という願望よりも切実にお金を必要としていました。

そこで彼は3億円の宝くじに当選します。


私は日々、自分がピンチの状態にある時こそその人の本性が表れると思っています。例えば朝の通勤ラッシュの時間帯、電車が緊急停止。大事な会議に遅れそう!とかテストに間に合わない!とか絶望する人が何人も居ることでしょう。その時あなたはどのような行動をするでしょうか?意味もなくイライラを募らせる人。会社に連絡する人。冷静にどうしたら一番早く目的地に着けるか調べる人。これこそそれぞれの本性を表す行動だと思うんです。

この本でも同じ。

大金を手に入れた後で、人はどのように変わるのか。変わらないのか。お金という誰もが望む物を手に入れた時に変化してしまうのか。今まで美しいと思っていたものや、ことを美しいと思えるか。美味しいと思ってたものを美味しいと思えるか。お金を手に入れる前の自分を否定せずに居られるか。

人間の本性を問われる作品だと感じました。

この本で起きてることは単純だし、似たようなことが起きる作品はあると思います。でも作品に漂う炬燵の電源を切った後のような、暑過ぎず、冷た過ぎず、ずっとこの温度が続けば良いのに。ここから出たくないな、と思えるような温度はこの作品でしか感じられないのではないでしょうか。