・土

土の表面は温かく、深く掘るにつれて冷たさを帯びる。深い場所にいくほど水分を含み、手にまとわりつく様な、生命の全てを飲み込んでしまう様な、そんな気がする。

中村文則の『土の中の子供』は何度読んでも私を苦しませ、私に希望を与え、私を作り直してくれる。

 

壮絶な虐待を受け、生死の淵を歩いた彼を可哀想だと思った自分は、なんて烏滸がましく、しかしなんて無力で高飛車なのかと気付かずにはいられない。

抵抗する力もなく土に埋められた彼は、どこに残っていたのか生命力としか言い様の無い力で生き返るのだ。

死ぬことを良いとは思わないものの、死ぬしかなかったと感じていた少年が、何かおかしいと、このままではいけないのではないかと土から必死に逃げる描写は胸が苦しくなる。

引き取られた施設で彼に向かって「それじゃあ思うつぼだよ」「不幸な立場が不幸な人間を生むなんて、そんな公式、俺は認めないぞ。それじゃあ、あいつらの思う通りじゃないか」と自分も虐待などの何らかの苦しみを経験したであろう少年が語る言葉も、そんな風に流れに抗って生きていた少年が数年後に自殺することも、私の心を砕く。

 

何度読んでも何度読んでも、私は以前読んだときから何も変わっていないのだと思い知らされ、だからこそ誠実に生きなければならないと思わされる。死を感じて生を知る。

 

暗い作品?確かに明るくはない。

しかしそんな理由で、これを読まないなんて人生にとって大きな損失だろうな。