・母方の祖父のこと

今日、母方の祖父が入院した。
私と干支が同じ、5回り違うので60歳差、祖父は今、81歳だ。
祖父は以前、前立腺癌を患って入院、手術をしたことがあるし、肺の手術を受けたこともある。そこから健康には気を遣っていた。タバコとお酒はやめて、毎日散歩に出かけて健康に過ごそうと努めていた。


しかし、祖父を変えてしまった出来事がある。叔父の死である。


叔父は、母の兄、つまり祖父の息子にあたる。彼が一昨年肺癌で入院してから、あっという間に亡くなってしまった。祖父は普段無口だし、感情をあまり表に出さないけれど、叔父のお葬式では何度か目を擦っていた。息子が亡くなる経験はしたことがないから、祖父の気持ちを理解することは正確には出来ないけれど、こんなにも残酷で辛い経験はないだろう。叔父が亡くなってからというもの、祖父は毎日お酒を飲むようになったし、節制もしなくなった。母曰く、もう生きることがどうでもよくなってしまったみたい、らしい。生きることに投げやり、もう死にたいということだろうか。

 

 

祖父は第二次世界大戦時、朝鮮半島に居た。疎開をしたものの、食べ物もなく、捨てられた食べ物をどんなに腐っていても口にしたらしい。日本に帰る時、船に乗っていたら野生のイルカが船と並行して飛び跳ねていた、と語っていた。祖父の口から戦争のことを聞いたのは、これが最初で最後だったように思う。
戦争から帰った祖父は、中学校に進み、県内で一番の進学校に入る。そして大学生になり、建築科の技術を活かし、建築関係の仕事をしていた。祖父の描く絵はとても緻密で正確に建物を捉えたものだったし、とても上手かった。この頃は全然絵を描かなかったけれど。

 

 

必死に紡いできた命はいつか、もう要らないと思う日が来るのだろうか。祖父の気持ちも分からなくない。でも残される祖母は。父親も兄も亡くなることになる母は。祖父のことが好きな孫たちは。何を思えば良い?
私はまた祖父と一緒に鍋を囲みたいし、子供の頃みたいに公園にも映画にも行きたい。祖父の描いた絵をもう一度見たい。トランプもしたい。私の好きな人がどんな人か教えたいし、いつか結婚式にも呼びたい。母がダイエットすると言いながらアイスを食べてることも、姉が最近肌の乾燥に悩んでることも、父が通販で電車の模型ばかり買うことも伝えたい。


まだいかないでよ。永遠じゃなことは分かってるけど、それでもやっぱり今じゃないはずなんだ。回復して、嘘みたいに何でもなかったみたいに、また笑えることを願ってるよ。