読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

・遮光

book person

 

最近になって日射しが強くなってきた。目が眩むような強い日射しは苦手である。部屋のカーテンは開けたくない。帰宅して部屋に入ると、空気の入れ換えの為にカーテンと窓が開けられていることがある。眩しいし、自分の世界が開かれてしまったようでそわそわする。明るさに抵抗がある私には遮光カーテンはなくてはならない存在だ。

 

この本の主人公も光を遮っていた。それには理由がある。

f:id:pantopancake:20160608235033j:image

『遮光』中村文則

中村文則の作品は、まだ3冊しか読めていない。先日述べたように『土の中の子供』は私にとってかなりの衝撃だったが、この『遮光』という作品も侮れない。

嘘しか言わない青年は、嘘をつくことが普通だった。嘘をつくことに抵抗はなく、嘘が本当の様に口から出る。その時は特に何も考えていないようだ。そして彼は演技が上手かった。時には優しい性格の男性のように、またある時は頭の悪そうな大学生のように。振舞おうと思えばいくらでも演じられて、見破られることがなかった。周りの人間に嘘しかついてこなかったから、周りの人間は彼の本当を知らない。

しかし彼は、あることには嘘がつけなかった。それは恋人・美紀に対してだった。美紀は事故で亡くなった。それでも彼女は生きていると周りに嘘を言い続ける彼。その嘘は虚しいのに、周りの人間は気づかない。だって彼は嘘がとても上手いから。

主人公の青年が耐え切れず吐き出す美紀の死に対してのセリフは、彼が人間なんだと思えた瞬間だった。涙が出た。彼のように自分の行動も信じられなくなったら人は生きていけるのだろうか。今、頭を振ったのは演技か?あくびをしたのは演技か?咳をしたのは演技か?自分の行動まで疑い出してしまったら、きっと私は死んでしまう。狂ってしまう。彼にもその気持ちはあった。自分が自分でなくなる恐怖を彼も感じていた。しかし、傍から見れば彼は異常で、物語の終盤に向けて徐々に崩れていく。最後には...。

作品の後に作者本人による解説が載っている。そこで作者が言っていたように、主人公の彼は、あそこまでいかなければ永遠に救われなかったのだと私も思う。だから苦しい。異常者に見える彼の気持ちを読者である私たちは知っている。知っているから彼のことを異常者だなんて私は思えなかった。

ぜひこの作品を読んでもらいたい。私がおすすめする本はたくさんあるけれど、中村文則の作品はどれも素晴らしい。(何度も言う。まだ3冊しか読んでいない。)

 

ところで、私は本を選ぶ時にあらすじを読んで決めることが多い。最近手に取る本は芥川賞受賞作が多い。意識はしてないのだけど。芥川龍之介が好きだからかな、と思ったり思わなかったりしている。今読んでいる新書もかなり興味深い。好きな養老孟司の新書だ。ぜひ紹介したい。